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情報漏えいの事例9つ|ランサムウェアや設定ミス、原因別にみる企業のリスク

皆さんこんにちは、代表の上口稚洋です。

「情報漏えいのリスクがあることはわかっているが、実際に起きたらどんな影響があるのか、いまひとつイメージできない」

そんな課題を抱えているセキュリティ担当者も、多いのではないでしょうか。

最近では、自社の弱点や対策の甘さを見直そうと、他社の情報漏えい事例を参考にする企業が増えています。

そこでこの記事では、ランサムウェア攻撃、クラウド設定ミス、リモートワークなど、さまざまな原因で起こった情報漏えいの事例を交えて解説します。

リアルなケースを知ることで、情報漏えいが起きたときの被害の深刻さや、自社が直面するリスクの全体像を把握しやすくなります。

より実践的な対策を検討するヒントとしてご活用ください。

情報漏えいとは?

まずは、情報漏えいの基本を紹介します。

情報漏えいの定義

情報漏えいとは、「本来は社外に知られてはならない重要な情報が、第三者に渡ってしまうこと」を指します。

たとえば、顧客の個人情報や企業の営業機密が外部に流出するようなケースは、代表的な情報漏えいです。

「情報漏えい」と聞くと、ハッキングや内部不正といった悪意ある行為を思い浮かべがちですが、実際にはメールの誤送信やUSBメモリの紛失など、日常業務でのちょっとしたミスが原因になるケースも多くあります。

なぜ企業は情報漏えい対策を強化すべきなのか

ひとたび機密情報や個人情報が外部に流出すると、企業は社会的な信頼を失うだけでなく、顧客離れや株価の下落など、深刻なダメージを受ける可能性があります。

とくに個人情報が漏えいした場合には、「個人情報保護法」に基づいて、所管官庁への報告や行政処分が求められることもあります。

さらに、被害者から損害賠償を請求され、数千万円規模の費用が発生するケースも少なくありません。

中小企業にとっては、こうした事態が経営そのものを揺るがす致命的な打撃につながることもあります。

だからこそ、正しい理解と早めの対策が欠かせません。

【原因別】情報漏えい事例9つと企業のリスクポイント

ここからは近年発生した情報漏えいの事例を、ランサムウェア・クラウドの設計ミス・リモートワークなど、原因別に紹介します。

実際に起きた情報漏えいの原因や被害を知ることは、自社の情報セキュリティ体制を見直すうえで非常に参考になります。

ランサムウェアによる情報漏えい

近年増加しているランサムウェアによる情報漏えいは、攻撃者が企業や組織のネットワークに侵入し、重要なデータを盗み出したうえで、外部に漏えいさせると脅迫する手口を指します。

データの暗号化による業務停止だけでなく、「情報をばらまく」といった二重の被害をもたらす点が、ランサムウェア攻撃の大きな特徴です。

サンリオエンターテイメント:2025年1月

2025年1月、株式会社サンリオエンターテイメントで、ランサムウェア攻撃による大規模な情報漏えいが発生しました。

これにより、同社が運営する施設のシステムが不正アクセスを受け、最大で約200万人分の個人情報が流出した可能性があると発表されています。

漏えいした情報の中に、クレジットカード情報は含まれていませんでしたが、ピューロランドの年間パスポート購入者の氏名・住所・電話番号・メールアドレス・ID、さらに従業員や取引先のマイナンバーの一部が流出しました。

サンリオエンターテイメントは、速やかに関係機関へ報告し、対象者への通知や専用窓口の設置など、迅速な対応を行っています。

この事例からは、企業が管理するデータの量が多ければ多いほど、一度の攻撃で甚大な被害になるリスクがあることがわかります

また、サンリオエンターテイメントは被害の拡大を最小限に抑える努力がみられましたが、裏をかえせば「初動が遅れると被害が拡大する」リスクも示しています。

参考記事:株式会社サンリオエンターテイメントへの不正アクセスに伴う情報漏洩の可能性に関するお知らせとお詫び

保険見直し本舗:2025年2月

2025年2月、保険見直し本舗を運営する株式会社GOESWELLが、ランサムウェアによるサイバー攻撃を受けました。

GOESWELL社は攻撃が確認されてすぐに対象サーバーをネットワークから切り離し、外部の専門家と連携して原因や被害範囲の調査を進めています。

その結果、保険の申込時や相談時に顧客から預かった情報、協業先企業から受託した業務データ、約510万件が暗号化されていた可能性があると判明しました。

この事例では、情報の外部流出こそ確認されていませんが、情報が暗号化されただけで業務が止まるという大きなインパクトを与えました。

とくに保険のように顧客情報を日常的に扱う業種で、一時的にでもデータにアクセスできない状態になることは、信頼や業務継続に大きな痛手となります。

参考記事:当社グループにおけるランサムウェア被害に関しまして(第2報)

カシオ計算機株式会社:2024年10月

2024年10月、カシオ計算機株式会社が海外から不正アクセスを受け、ランサムウェアによるシステム障害と情報漏えいが発生しました。

流出した個人情報には、従業員の氏名・メールアドレス・所属部署・社員番号・一部生年月日や身分証情報、取引先担当者の連絡先、ユーザーの配送先情報などが含まれていました。

今回の被害は海外からの不正アクセスがきっかけであり、その原因として海外拠点を含むネットワークセキュリティの不備が指摘されています。

この事例では、国内での対策が万全でも、海外拠点やグローバルネットワークの管理体制に抜け穴があると、全体が危険にさらされることを示しています。

なお、カシオは被害を受けて、関係者への個別連絡や社内外への説明対応を迅速に実施しました。

参考記事:ランサムウェア攻撃による情報漏えい等調査結果について

サイゼリヤ:2024年10月

2024年10月、株式会社サイゼリヤがランサムウェアによるサイバー攻撃を受け、大規模な情報漏えいとシステム障害が発生しました。

この攻撃により、パートやアルバイトを含む従業員情報、取引先の情報、さらに過去の応募者や取引先関係者の個人情報など、約6万件が流出した可能性があります。

サイゼリヤは、外部の専門調査機関と連携しながら、被害状況の調査と再発防止策の検討を進めています。

この事例からわかることは、店舗運営やサプライチェーンの管理をITに依存している飲食業界では、サイバー攻撃が即座にサービス提供や経営に支障をきたすリスクがあることです。

また、流出した情報のなかに過去の応募者や取引先関係者が含まれているため、情報の保管期間・管理範囲・アクセス権限の見直しなど、包括的なセキュリティ体制の構築が求められます。

参考記事:当社におけるランサムウェア被害に伴うサービスの一部停止と情報漏えいに関するお知らせ

クラウド設定ミスによる情報漏えい

2025年5月30日、コスモ石油が運営する「コミっと車検」で、顧客とスタッフの個人情報、最大約17万件が漏えいした疑いが発覚しました。

社内クラウドストレージのアクセス制限の設定ミスにより、本来は社内関係者のみが閲覧できるはずのデータが、外部から閲覧できる状態になっていたことが判明しています。

この事例では、サイバー攻撃や不正アクセスではなく、社内の設定不備という“人的ミス”によって情報が外部に漏れる状態になっていた点が重要です。

クラウドサービスは利便性が高いですが、設定を誤ると意図しない情報公開につながる危険があります。

導入後も定期的な設定チェックと社内教育の継続が不可欠です。

参考記事:コミっと車検申込情報のアクセス権限での設定誤りについて

リモートワークによる情報漏えい

2025年5月、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営する株式会社PR TIMESは、最大90万1,603件の個人情報が漏えいした可能性があると発表しました。

きっかけは、2025年4月25日にサーバーで不審なファイルが確認されたことです。

調査の結果、24日から25日にかけて管理者画面への不正アクセスが行われ、27日から28日にかけて管理者が保有する情報が流出した可能性があることが判明しています。

この情報漏えいは、リモートワーク対応のためにセキュリティ設定を緩めていたことに起因します。

さらに、共有アカウントの管理が不十分だったことも、リスクを拡大させました。

この事例では、リモートワーク環境整備のために業務効率を優先した結果、本来必要だった防御が甘くなり、不正アクセスが起こりました。

早急なリモート対応時のセキュリティポリシー見直しと、管理体制の再構築が求められます。

参考記事:PR TIMES、不正アクセスによる情報漏えいの可能性に関するお詫びとご報告

メール誤送信による情報漏えい

2025年4月、みずほ信託銀行株式会社で、個人顧客2,472名と法人顧客246社に関する情報が、誤って外部に送信される事故が発生しました。

原因は、同行の社員が社内の別の社員に送るつもりだったメールの宛先に、誤って外部委託先の社員2名を含めてしまったことです。

誤送信は当日中に発覚し、委託先に連絡のうえ、該当メールと添付ファイルを削除したことが確認されました。

不正利用や再漏えいの可能性はないと報告されていますが、みずほ信託銀行は、再発防止のため電子メールの運用ルール徹底など管理体制の強化を進めています。

メール誤送信は誰もが起こしうる情報漏えいリスクのひとつであり、技術的なセキュリティ対策だけでは防ぎきれません。

委託先とのやり取りが増える現代のビジネスシーンにおいて、内部だけでなく外部との情報共有ルール・送信先管理の徹底も必要です。

参考記事:お客さま情報の漏えいに関するお詫びとご報告について 

USBの置き忘れによる情報漏えい

2022年6月、兵庫県尼崎市で、市の臨時給付金事業を受託した業者の社員が、約46万人分の個人情報が保存されたUSBメモリを紛失しました。

この社員は、データ移行作業を終えた後に同僚と飲食店で会食し、その際にUSBメモリを入れたカバンを紛失。翌朝、警察に届け出を行いました。

幸いにもUSBは発見され、データの抜き取りは確認されませんでした。

この事例では、職務とプライベートの境界が曖昧な状態でデータ管理が行われていたこと、USBの持ち出しに関する明確なルールやチェック体制がなかったことが指摘されています。

委託先に業務を任せきりにせず、セキュリティポリシーと監督義務を果たす必要が委託元とに求められます。

参考記事:個人情報を含むUSBメモリーの紛失事案について

手土産転職による情報漏えい

2019年、ソフトバンクの元社員が退職直前に同社のネットワーク技術に関する営業秘密を不正に持ち出し、その後楽天モバイルに転職した事件が発生しました。

この元社員は、自宅からソフトバンクのサーバーにアクセスし、約170点の技術情報ファイルを不正に持ち出し、楽天モバイルの業務に関わるデバイスにデータを移していたことが確認されました。

2020年2月の不正持ち出し発覚後、ソフトバンクは警察へ相談。2021年1月、元社員は不正競争防止法違反(営業秘密領得)の容疑で逮捕されています。

この事例は、従業員による「手土産転職」と呼ばれる機密情報の不正持ち出しが、企業に与える深刻なリスクを示した典型例といえます。

参考記事:楽天モバイルへ転職した元社員の逮捕について

情報漏えいが発覚したとき対応

万が一、情報漏えいが発覚したら「早く・正確に・組織的に」動くことが大切です。

ここからは、情報漏えいが起きたときの対応の流れを紹介します。

ステップ1:報告

情報漏えいの兆候や事実に気づいたら、すぐに上司や担当部署へ報告しましょう。

個人の判断で動くのではなく、組織の責任者やインシデント対応チームに速やかに共有することが最優先です。

初期段階での報告が早ければ早いほど、被害の拡大を防ぐ初動対応をスムーズに開始できます。

報告後は、速やかに対策本部を立ち上げ、関係者との情報共有や指示系統の整備を進めます。

ステップ2:実態確認と応急処置

次に、「どの情報が、どの程度漏えいしたのか」を正確に把握します。

被害拡大を防ぐため、必要に応じてシステムやサービスを一時的に停止する判断も必要になります。

不正アクセスが疑われる場合は、該当システムをネットワークから隔離し、アクセスログなどの証拠を保全しましょう。

たとえば、クレジットカード情報が漏えいしていれば速やかにカード会社へ連絡し、アカウント情報が流出していた場合は、対象ユーザーにパスワードの変更や再発行を依頼します。

こうした応急処置は、二次被害の防止と早期回復のために不可欠です。

ステップ3:二次被害を防ぐ

漏えいした情報が第三者に悪用されないよう、早急に追加の対策を講じることが重要です。

まず、被害を受けたユーザーにパスワードの変更や再設定などの対応を依頼し、不正ログインやなりすましのリスクを軽減します。

また、原因が不正アクセスだった場合には、ネットワークを遮断し、ウイルス感染や侵入の疑いがある端末をすぐに隔離することで、さらなる情報流出を防ぎます。

こうした対応をスピーディーかつ適切に行うことで、二次被害を最小限に抑え、復旧作業へ集中できる環境を整えることができます。

ステップ4:原因や影響範囲を詳しく調査

情報漏えいが発生した際には、「なぜ起きたのか」「どのシステム・どのデータが影響を受けたのか」を正確に把握する必要があります。

原因の特定は、再発防止や今後の対策に直結します。

調査には専門的な知識が必要なケースも多いため、社内だけで対応が難しい場合は、外部のセキュリティ専門家へ依頼しましょう。

第三者による客観的かつ専門的な調査によって、根本原因の解明と実効性のある対策の立案が可能になります。

ステップ5:関係機関へ報告と被害者への通知

不正アクセスによる情報漏えいが確認された場合は、速やかに警察やサイバー犯罪相談窓口に相談しましょう。

なぜなら、不正アクセスは「不正アクセス禁止法」に抵触する可能性があるため、警察の専門部署が対応するためです。

さらに、個人情報が流出した場合には、業種ごとに定められた監督官庁や個人情報保護委員会への報告が必要です。

速報は3〜5日以内、詳細な報告は30日以内を目安に提出しましょう。

また、被害を受けた顧客や取引先には、誠実かつ分かりやすい説明を行い、必要に応じてプレスリリースの発表や、問い合わせ窓口の設置も検討します。

自社のホームページなどを通じて状況を正確に開示することが、信頼回復の一歩となります。

参考記事:警視庁不正アクセスに関するページ 漏えい等の対応とお役立ち資料

情報漏えいが企業にもたらす影響

情報漏えいは、企業にとって信用・経済・法務・事業継続など多方面にわたる深刻なダメージをもたらします。

社会的信用とブランドイメージの低下

情報漏えいが起きると、企業のブランドや社会的信用は一気に失われます。

これは単なるイメージダウンではなく、取引先や顧客からの信頼を失い、売上の減少や取引停止などの実害に発展する可能性があります。

さらに、優秀な人材の採用が難しくなるなど、将来的な成長力や競争力の低下にもつながります。

巨額の損害賠償リスク

情報漏えいによって顧客や取引先に損害が出た場合、企業は損害賠償を求められる可能性があります。

加えて、監督官庁から業務改善命令や罰金といった行政処分を受けることもあり、実際に数億円規模の賠償金が発生した事例もあります。

業務への影響とコスト増大

サイバー攻撃や内部不正による情報漏えいが発生すると、業務の一時停止やシステムの再構築が必要になるケースがあります。

その結果、取引やサービス提供が中断され、顧客対応や復旧作業に多大な時間とコストを要します。

結果として、経営資源が圧迫され、最悪の場合、事業の継続そのものが危ぶまれる可能性も考えられます。

情報漏えいを防ぐには?

情報漏えいのリスクが高まるなか、「何から対策すべきか分からない」という声も少なくありません。

では、実際にどのような対策を講じれば、情報漏えいを防ぐことができるのでしょうか?

ここでは、情報漏えいを防ぐために企業が取り組むべきポイントを解説します。

社内ルールと教育の徹底

情報漏えいを防ぐためには、社員一人ひとりが情報管理の重要性を理解し、正しい知識を身につけることが欠かせません。

そのためには、社内で共通のルールを明文化し、定期的に教育や研修を行うことが大切です。

とくに、テレワークが広がった今、在宅勤務中の情報管理が新たな課題になっています。

リモート環境での対策については、下記の記事で詳しく紹介しています。 

>>情報漏えいを防ぐには?リモートワーク時代の必須セキュリティ対策7つ

生成AIツールの情報管理リスク

ChatGPTやCopilotなどの生成AIは便利な反面、情報管理の面ではリスクもあります。

たとえば、AIに社内の機密情報を入力した場合、外部に内容が保存・再利用される可能性があるため、安易な利用は危険です。

AIツールの使用にあたっては、どの情報を扱ってよいかを明確にし、社内でルールを整備することが必要です。

詳しいリスクや具体的な対策は、以下の記事をご覧ください。 

>>AI時代の情報漏えい対策|Copilot・ChatGPTのリスク比較と5つの対応策

まとめ

情報漏えいは、企業の信頼を失墜させるだけでなく、巨額の損害賠償や業務の停止など、経営に深刻な影響を及ぼします。

その原因は、ランサムウェア攻撃、クラウドの設定ミス、リモートワーク環境における管理の甘さなど多岐にわたり、これまでにさまざまな企業が被害にあってきました。

アイネットテクノロジーズ
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当社はゼロトラストネットワークを基本に、標的型攻撃訓練から内部不正検知をコンサルティングから導入、SOC、サポートまでワンストップでご提供します。

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>>情報漏えいを防ぐには?リモートワーク時代の必須セキュリティ対策7つ 生成AIによる情報漏えいの事例 生成AIによる情報漏えいは、過去に何度も起こっています。ここでは、情報漏えい事例を2つ紹介します。 ChatGPTで個人情報漏えいが発生 2023年3月、OpenAI社は、有料版「ChatGPT Plus」の一部ユーザーの情報が外部から見られる状態になっていたことを発表しました。 名前やメールアドレス、クレジットカードの一部情報などが、約10時間にわたって他のユーザーにも見えていたのです。 原因は、ChatGPTが使用していたオープンソースライブラリのバグにありました。 OpenAI社はこの不具合を修正し、リスクは収束したとしていますが、一度漏れた情報は取り戻せません。 このように、システムのバグや予期しない動きによって、ユーザーが意図しなくても情報が漏れてしまうリスクもあります。 サムスン社内でソースコードが流出 2023年、大手企業サムスンでも、生成AIをめぐる情報漏えいが問題になりました。 これは、社内のエンジニアが開発中のソースコードをChatGPTに入力したところ、その内容が外部に漏れてしまったおそれがあるというケースです。 業務で使った情報がクラウドに残り、他のユーザーに見られてしまうリスクが生じたことが問題視されました。 これをきっかけに、サムスンはChatGPTなど生成AIの社内利用を全面的に禁止する方針を打ち出しました。 日常業務の中で何気なく入力した内容が、大きな情報漏えいにつながってしまうという、生成AIならではの事例といえます。 なぜ起こる?生成AIによる情報漏えいの主な原因 生成AIによって引き起こされる情報漏えいの主な原因は、以下の4つです。 プロンプト経由での個人情報や機密情報の出力 学習データへの不正アクセス バグや設定ミス 教育不足による従業員の誤操作 では、詳しく解説していきます。 プロンプト経由での個人情報や機密情報の出力 生成AIは、ユーザーが入力した内容を学習データとして蓄積しています。 蓄積されたデータは、別ユーザーへの応答に利用される可能性があり、知らないうちに大切な情報が共有されてしまうことがあります。 一見便利に見えるプロンプト入力ですが、AIの学習に使われるリスクがあることを念頭におきましょう。 学習データへの不正アクセス 生成AIが取り込んだデータは、インターネット上のサーバーに保管されることが多いです。 そこに不正アクセスがあると、情報が外部に漏れてしまうおそれがあります。 社内の機密や顧客情報などが、悪意のある第三者に盗まれてしまうと、大きなトラブルへと発展します。 企業向けの生成AIは、データ管理や意図しない学習・共有を防ぐ仕組みが強化されていますが、100%安全とは限りません。 「AIに入力した情報がどこかに残るかもしれない」という意識を持って使うことが大切です。 バグや設定ミス 生成AIは、まだ発展途中の技術です。 システムにバグがあったり、設定にミスがあったりすると、本来見せるつもりのなかった情報が出てしまうことがあります。 また、ユーザー側で設定を間違えたり、誤った使い方をしてしまった場合も、情報漏えいの原因になります。 生成AIを安心して使うためには、サービスの仕様や使い方をきちんと確認し、最新の注意喚起にも目を通すことが必要です。 教育不足による従業員の誤操作 従業員がAIの使い方やリスクを理解しないまま操作してしまうと、情報漏えいの原因になることがあります。 日本国内でも従業員の誤操作による情報漏えいは発生しており、場合によっては、企業の信用が失われたり、法的な責任を問われたりすることもあります。 生成AIを安心して活用するには、従業員に向けた継続的な教育と、正しい使い方を示すガイドラインの整備が欠かせません。 生成AIによる情報漏えいを防ぐ5つの対策 生成AIによる情報漏えいを防ぐために企業が取るべき対策は、以下の5つです。 個人情報や機密情報は入力しない 履歴を削除、学習設定の無効化 AI利用のルールを定める 法人向けプランの利用 セキュリティシステムの活用 では、詳しく解説していきます。 1:個人情報や機密情報は入力しない 生成AIは、入力されたデータを、学習や今後のサービス改善に活用する仕組みです。 この性質を理解せずに、顧客情報や社内の機密情報を入力すると、情報漏えいのリスクが極めて高くなります。 そのため、従業員には「入力してはいけない情報」をリスト化して共有し、プロンプトに機密を含めない運用ルールを徹底することが重要です。 2:履歴を削除、学習設定の無効化 多くの生成AIには、利用履歴が自動で保存される機能があります。 この履歴を放置すると、社外の第三者がアクセスするリスクが高まり、情報漏えいの原因となる可能性があります。 そこで、履歴をこまめに削除することが効果的な対策です。 Copilotでは、履歴一覧から削除したい会話を選び、ゴミ箱アイコンをクリックするだけで簡単に削除できます。 ChatGPTも履歴を残さない設定が可能です。 この機能を有効化することで、機密情報が含まれるプロンプトを入力しても、その内容が学習データに使われることを防げます。 こうした設定を活用し、情報漏えいを未然に防ぐことが大切です。 3:AI利用のルールを定める 生成AIを業務で使う場合は、情報保護の観点から「使っていい情報と使ってはいけない情報」のルールを定めることが必要です。 ルールが明確になっていないと、悪気なく機密情報を入力してしまい、重大な漏えいにつながりかねません。 実際の情報漏えい事例を参考にしながら研修や教育を行い、全社員にリスク意識を浸透させることが予防策となります。 4:法人向けプランの利用 生成AIの法人向けプランには、セキュリティ強化や管理機能の充実に加え、データが学習に利用されない、組織単位での利用管理、などがあり、機密性の高い業務に効果的です。 たとえば、「Copilot for Microsoft 365」では、Microsoft 365のセキュリティフレームワーク上で動作するため、ユーザーの入力内容がAIの学習に使われることはありません。 また、Teamsを使ったリアルタイム要約や共同編集など、利便性と安全性の両立が可能です。 一方、「ChatGPT Enterprise」は、入力データが学習に使われないことに加え、暗号化通信、アクセス制御、利用状況の可視化など、セキュリティ対策が徹底されています。 さらに、データの学習利用を無効化し、通信や保存時の暗号化、SSOや監査ログなど高度なセキュリティ管理機能を備えています そのほか、Geminiでは「Gemini for Google Workspace」、Claudeでは「Claude Team/Enterprise」と、各AIが法人向けプランを提供しています。 5:セキュリティシステムの活用 生成AIからの情報漏えいを防ぐためには、セキュリティシステムや対策ツールの活用が欠かせません。 近年では、生成AIの利用に特化した機能を備えたものが増えています。 たとえば、以下のような機能を持つ製品があります。 プロンプト入力時に機密情報を自動で検知・ブロック ログイン時に社内ルールを通知するポップアップ表示 管理者が入力内容をリアルタイムでモニタリングできるダッシュボード こうしたツールを活用すれば、ヒューマンエラーによる情報漏えいリスクを大幅に軽減できます。 さらに、ブラウザ版のCopilotを使う場合は、DLP(データ損失防止)設定やウイルス対策ソフトの導入も必須です。 DLPによって送信データの監視・制御が可能になり、不正アクセスや意図しない社外送信のリスクを抑えることができます。 Copilot・ChatGTP・Gemini、主要生成AIごとの情報漏えいリスク 日本で広く使われている生成AIには、Microsoftの「Copilot」やOpenAIの「ChatGPT」、Googleの「Gemini」などがあります。 これらは設計や運用方針、学習データの扱い方がそれぞれ異なるため、情報漏えいのリスクもAIごとに違います。 そのため、これまでに説明した4つの原因に加え、利用するAIの特徴に合わせたリスク管理も重要です。 ここでは、代表的な生成AIごとに起こり得る情報漏えいのリスクについて解説します。 Copilot(Microsoft 365) Microsoft 365 Copilotを利用する際の最大のリスクは、情報保護ツールと連携しないことで機密情報が漏れてしまう点です。 とくに、「Microsoft Purview」の秘密度ラベルや暗号化機能を使わない場合、Copilotはセンシティブな情報を通常のデータと区別せずに扱ってしまいます。 そのため、重要な機密情報が誤って文書やチャットの応答として外部に出力される危険性が高まります。 Copilotの情報漏えいリスクを抑えるには、Microsoft Purviewなどの情報保護機能と連携が不可欠といえます。 >>Microsoft Purviewとは?データセキュリティを支える3つの柱と導入メリット ChatGPT(OpenAI) ChatGPTの無料版や個人向け有料版では、入力した内容がAIの学習データとして使われるリスクがあるため業務利用には向いていません。 実際にOpenAIも利用規約でも、機密情報や個人情報を入力しないよう明記されており、情報の取り扱いには十分な注意が求められます。 一方、ChatGPTのエンタープライズ版(またはTeam板)では、学習の無効化やログ管理、権限設定が可能で、セキュリティ面が強化されています。 社外秘情報や顧客データを扱う場合は、ビジネス向けプランの導入が推奨されます。 Google Gemini Google Geminiは、Googleアカウントとの連携やクラウド上でのデータ管理が特徴です。 しかし、この利便性の高さが、情報漏えいのリスクを高める要因になります。 とくに注意すべきなのは、個人のGoogleアカウントと社内アカウントとの境界が曖昧になりやすい点です。 たとえば、従業員が誤って個人アカウントで業務データを扱うと、そのデータが企業の管理外に出てしまい、アクセス制御が効かなくなることも考えられます。 Google Geminiを業務で活用する際には、アカウントの厳格な管理とクラウド設定の見直しが不可欠です。 Claude AI(Anthropic)など Claude AIをはじめとする海外製AIツールでは、「データ使用許諾」が利用規約に含まれていることが多く、情報漏えいのリスクが高いです。 海外製AIツールはグローバルな基準で設計されているため、データの利用方法や保存先が日本の法規則と異なる場合があります。 そのため、重要な機密情報や個人情報を入力すると、意図せず第三者に利用されたり海外に送信されたりするリスクが潜んでいます。 利用前に規約の内容を細かく確認し、自社のセキュリティポリシーと照らし合わせたリスク評価が不可欠です。 まとめ 生成AIは業務の効率化や情報整理において強力なツールですが、同時に情報漏えいリスクにも十分な注意が必要です。 とくに、個人情報や機密情報を取り扱う企業では、利用ツールの選定や社内ルールの整備が不可欠です。 機密情報を入力しない、履歴や学習設定を適切に管理する、法人向けプランを活用するといった基本的な対策を徹底することで、情報漏えいのリスクを大きく軽減できます。 さらに、Copilot、ChatGPT、Geminiなどの生成AIは、それぞれ異なるリスクとセキュリティ仕様を持っており、導入前にはデータの取り扱いやアカウント管理体制をしっかり確認することが求められます。 組織全体でセキュリティ意識を高め、継続的に見直しと改善を行うことが、安全かつ効果的なAI活用の鍵といえるでしょう。

Copilot の利用要件が大幅に緩和されました

皆さん、こんにちは。 アイネットテクノロジーズ 上口裕樹です。 皆様は普段、生成AIをどの程度業務で利用していますか? 生成AIというキーワードそのものはそれなりに知られていると思いますが、本格的な普及はまだまだではないでしょうか。 そんな生成AIですが、2024年は飛躍の1年になるのではという声が世界中から聞こえてきています。 現在、生成AI は大きく、ChatGPT/OpenAI , Copilot/Microsoft , Google Bard/Google の 3つが主に注目されていますが、 今回はタイトルにある通り、Copilot 利用要件緩和についてお話したいと思いますが、そもそも Copilot とはなんでしょうか? Copilot とは、要約すると Microsoft が提供している人工知能型チャットサービスです。 当社でもCopilot 導入しているため実際に聞いてみました。 解説は上記の通りですが、最近大きな発表がありました。それが、利用要件の大幅な緩和です。 ご存じの方も多いかとは思いますが、これまで商用版の Copilot 利用には Microsoft 365 E3 or E5 / 300ライセンス 以上の保有が必要でした。 Copilot の 価格は現在、約¥3,750 ユーザー/月(年間契約)なので、300ライセンス分を購入するとなると結構な費用になるかと思います。 Copilot for Microsoft 365についてはこちら https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365/business/copilot-for-microsoft-365#Pricing なんと、この最低購入数が、1ユーザーから購入可能に変更となりました! また、Office 365 E3 or E5 保有でも利用可能になったということで、Microsoft 365 E3 以上の保有が必須ではなくなりました。 Copilot は 注目度は高かったものの、購入要件が厳しいと批判的な声があがっていたため、要望に応じて要件を緩和したのでは?と推察されています。 この発表を受けて当社も導入に踏み切りました!! 現在、M365 Apps との統合機能や Microsoft 365 Chat など、実証実験中です。 こちらについても少し情報がまとまったら、改めて情報発信したいと思います。 Copilot 導入検討されている方や、ご興味をお持ちの方、是非一度ご連絡ください。 株式会社アイネットテクノロジーズ info@inet-tech.jp

情報漏えいによる損害賠償の実態とは?相場と事例まとめ

皆さんこんにちは、代表の上口稚洋です。 近年、企業の情報漏えい事故が相次ぎ、損害賠償請求にまで発展するケースが増えています。 「万が一漏えいが起きたら、どれくらいの損害賠償を請求されるのだろう?」 そんな不安を感じている方も多いのではないでしょうか。 この記事では、情報漏えいによって企業が負う損害賠償の相場や、実際の事例、そして企業が取るべき対策についてわかりやすく解説します。 情報漏えいで発生する損害賠償について 「個人情報が漏れたら、企業は必ず損害賠償を支払うのか?」 そう疑問に思う方は多いかもしれません。 実は、個人情報保護法には「損害賠償」に関する明確な規定はありません。 実際に損害賠償が求められるのは、「プライバシーを侵害された」などの民法上の不法行為責任(民法709条)や、秘密保持契約違反など契約上の債務不履行が根拠となるケースがほとんどです(民法415条)。 つまり、個人情報保護法に違反したという理由だけで、必ずしも賠償義務が発生するわけではないのです。 情報漏えいで損害賠償が発生するケース 先述した通り、企業が情報漏えいを起こしても、必ず損害賠償が発生するわけではありません。 しかし、民事上の責任として、損害賠償の支払いを命じられる場合もあります。 ここでは、どのようなケースで損害賠償が発生するのかを解説します。 企業側に故意、または過失がある場合 企業に故意や過失があると認められた場合、損害賠償の責任が発生します。 たとえば、適切なセキュリティ対策を取らずに個人情報を管理していたり、ウイルス対策ソフトの更新を怠っていたようなケースが該当します。 こうした管理の不備は、個人情報保護法や契約上の「安全管理義務」に違反しているとみなされます。 安全管理義務とは、個人情報を漏えいや紛失、改ざんから守るために、企業が整えておくべき管理体制のことです。 この義務を怠って情報漏えいが発生した場合には、民法上の不法行為責任に基づき、損害賠償を求められることになります。 なお、2022年に改定された個人情報保護法では、個人情報が漏えいし、その経緯や取扱・対応に落ち度があることが発覚した法人に対する罰金は1億円以下です。 漏えいによって被害者に損害が発生した場合 実際に被害者に損害が生じた場合、企業は損害賠償責任を負うことになります。 たとえば、漏えいした情報が悪用され、迷惑メールが届いたり、詐欺やなりすまし被害に遭った場合などが該当します。 ただし、漏えいが確認されたとしても実際の被害がない場合には、賠償額が少額にとどまる、または請求自体が認められないこともあります。 契約違反や秘密保持義務違反があった場合 情報漏えいが契約違反や秘密保持義務の違反によって発生した場合にも、損害賠償責任が問われます。 たとえば、業務委託契約で「個人情報を適切に管理する」と定めていたにもかかわらず、その義務が守られなかったときは、民法上の「債務不履行責任」に基づき損害賠償が請求されます。 また、秘密保持契約を結んでいた場合でも、契約の範囲を超えて情報を扱ったり、十分な管理がされていなかった場合は契約違反となり、同様に法的責任を負うことになります。 契約内容は、損害賠償の有無や金額を決める重要な根拠となるため、契約締結時点から厳密に対応することが求められます。 【注意】行政処分や刑事罰の対象になる場合 情報漏えいが発生し、企業が法令に違反していた場合は、損害賠償だけでなく行政処分や刑事罰を受ける可能性も否定できません。 たとえば、企業の情報管理が不適切だと疑われた場合、個人情報保護委員会が立入調査や報告を求めることがあります。 このとき、正当な理由なく協力を拒んだり、虚偽の報告を行ったりした場合には50万円以下の罰金が科される可能性があります(個人情報保護法182条)。 さらに、委員会からの是正命令に従わず違反を続けた場合には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることもあります(同法178条)。 情報漏えいによる損害賠償の相場はいくら? 情報漏えいが起きた際の損害賠償額は、漏えいした情報の内容や被害の有無、企業の対応によって大きく変わります。 ここでは代表的なケースごとに、損害賠償の相場を紹介します。 一般的な連絡先情報のみの漏えい 氏名・住所・電話番号など、一般的な連絡先のみが流出した場合は、損害賠償額は1人あたり3,000円〜5,000円が目安です。 一般的な連絡先のみの場合は、漏えいしてもすぐに深刻な被害にはつながりにくいため、賠償額も比較的低く設定される傾向があります。 ただし、漏えい人数が多ければ数千万円規模の損害になることもあり、企業にとっては十分にリスクのある金額といえます。 センシティブ情報や二次被害がある漏えい 漏えいした情報に、病歴・信用情報・家族構成など秘匿性の高いセンシティブ情報が含まれていた場合、損害賠償額は1人あたり約3万円前後が相場です。 実際に詐欺やなりすましといった二次被害が起きた場合は、被害の深刻さが認められ、さらに高額な賠償が認定されるケースもあります。 また、漏えい後の企業対応が不誠実だと裁判で不利に働いてしまうため、賠償額が上乗せされる事態になりかねません。 クレジットカード情報の漏えい クレジットカード番号・有効期限・セキュリティコードなどが漏えいした場合は、1件あたり約10万円が損害賠償の相場とされています。 これらの情報は第三者に悪用されるリスクが極めて高く、実際に不正利用されてしまうケースも少なくありません。 そのため、カード情報の漏えいはとくに深刻なインシデントとみなされ、賠償額も高額になる傾向があります。 実際に損害賠償が発生した3つの事例 情報漏えいにより、企業や自治体が損害賠償を命じられたケースは少なくありません。 ここでは、代表的な3つの事例を紹介します。 事例1:ベネッセコーポレーション まず紹介するのは、2014年に発生したベネッセコーポレーションの大規模な情報漏えい事件です。 この事件では、業務委託先の元社員による不正な持ち出しにより、約4,858万件の顧客情報が流出しました。 漏えいした情報には、氏名・性別・生年月日・住所・電話番号・メールアドレスに加え、保護者や子どもの情報、さらには出産予定日など、非常に多くの個人情報が含まれていました。 東京地方裁判所は、被害者1人あたり3,300円の損害賠償、総額で約1,300万円の支払いをベネッセに命じました。 ベネッセは顧客対応や信頼回復のための費用として、約260億円もの特別損失を計上。 経済的・社会的に大きな影響を及ぼした事件となりました。 事例2:エステティックTBC 次に紹介するのは、エステティックサロンTBCのWebサイトで、約5万人分の会員情報が流出した事件です。 漏えいした情報には、氏名・住所・職業・電話番号・メールアドレスのほか、アンケートの回答内容や希望するエステコース名など、個人の関心に関わるデータまで含まれていました。 事件発覚後、TBCは速やかにサーバーから情報を削除しましたが、一度流出したデータの完全な回収は不可能でした。 その結果、迷惑メールの送信など二次被害が発生しています。 裁判では、原告13名に対して1人あたり35,000円、別の1名には22,000円の損害賠償が命じられました。 事例3:自治体 最後に紹介するのは、1998年に京都府宇治市で発生した情報漏えい事件です。 この事件では、約21万件の住民基本台帳データが漏えいし、名簿業者に販売されたことが判明しました。 これを受け、住民たちは国家賠償法および民法の不法行為責任に基づき宇治市に損害賠償を請求。 裁判所は、宇治市に対し1人あたり慰謝料1万円と弁護士費用5,000円の支払いを命じました。 損害としては、プライバシー権の侵害による精神的苦痛や、情報が完全に回収されていないことへの不安感が認定されています。 この事件は、自治体の情報漏えいに対して損害賠償が認められた日本初の判例として、現在でも重要な前例とされています。 情報漏えいによって発生するその他のコスト 情報漏えいによる損失は、損害賠償金だけではありません。 顧客対応・企業イメージの低下・業務停止など、目に見えにくいコストも多く発生します。 そのため、損害賠償を含むトータルコストを正しく把握することが、企業にとって重要です。 原因の調査やシステム復旧にかかる費用 漏えいが発生すると、まず必要になるのが原因の特定と範囲の調査です。 調査は外部の専門機関などが行うため、調査費用は高額になる傾向があります。 また、問題となった経路の遮断や、システムの復旧・再構築にも大きな費用がかかります。 加えて、再発防止のためのセキュリティ強化費用も必要となり、企業にとっては大きな負担となります。 クレーム対応やコールセンター運営費 情報漏えいが明らかになると、顧客や取引先への通知と謝罪が欠かせません。 新聞広告やWebでの謝罪文掲載、ダイレクトメールの送付など、対応コストは一気に膨らみます。 さらに、専用のコールセンターを新たに設置するケースも多く、その運営費用に数百万円から1,000万円以上がかかることがあります。 信用低下による売上減少 情報漏えいが原因でサービスが一時停止すると、その間の売上が減少します。 さらに、顧客の信頼を失うことにより、顧客や取引先から契約の見直しや打ち切り、サービス解約が相次ぐことが考えられます。 情報漏えいによる損害賠償に備えるには? 万が一、損害賠償に備えるには、事前の対策が不可欠です。 ここでは、企業が取り組むべき予防策として、セキュリティ対策・社内教育・初動対応フローの整備について解説します。 セキュリティ対策を徹底する まず基本となるのは、情報セキュリティの強化です。 アクセス権限を必要最低限に制限し、情報への不正アクセスを防ぎます。 また、強力なパスワード管理、VPN(仮想プライベートネットワーク)の利用、多要素認証の導入も効果的です。 とくにリモートワークが一般化した今、どこからでも安全に業務を行う環境づくりが重要です。 こうした基本的な対策を日常的に見直し、継続して実施することが、情報漏えいリスクの大幅な低減につながります。 セキュリティ対策については以下の記事を参考にしてください。 >>情報漏えいを防ぐには?リモートワーク時代の必須セキュリティ対策7つ 社員教育とルールの徹底 情報漏えいの多くは、人為的ミスやルール違反によって起こります。 そのため、全社員に対する情報セキュリティ教育や定期的な訓練が欠かせません。 また、ノートパソコンやUSBメモリなどの社外持ち出しを原則禁止とし、やむを得ない場合は上司の許可や暗号化を必須とするルールを設けましょう。 さらに、ChatGPTやCopilotといった生成AIの業務利用についても注意が必要です。 これらは便利な反面、使い方を誤ると情報漏えいリスクを高める可能性があります。 具体的なガイドラインを整備し、社員に周知することが重要です。 社員教育については以下の記事を参考にしてください。 >>AIによる情報漏えいの原因と対策!CopilotやChatGTP、主要AIごとのリスクも解説 >>いまさら聞けない標的型メール訓練とは?実施の流れと効果を高める3つのポイントを解説 情報漏えいが起きたときの初動対応フローを整備する 情報漏えいが発生したときは、初動の速さと正確さが被害の大きさを左右します。 そのため、事故発生時に備えた対応フローの整備が重要です。 具体的には、あらかじめ社内の連絡体制や初動対応マニュアルを作成し、以下のような対応手順を明確にしておきます。 誰が責任者となり指揮をとるか 対応チームのメンバーは誰か 被害の拡大を防ぐための緊急措置 情報漏えいの範囲や原因の把握 顧客や関係者への報告・情報共有の方法 これらを事前に定めておくことで、社内の混乱を防ぎ、被害を最小限に抑えることができます。 損害賠償が発生しないケースもある すべての情報漏えいにおいて、必ずしも損害賠償が発生するとは限りません。 以下のようなケースでは、法律上、賠償責任を問うことができない場合があります。 公益通報に該当する場合 情報の漏えいが「公益通報」として認められた場合、漏えいした本人に損害賠償責任を問うことはできません。 これは、公益通報者保護法という法律に基づくものです。 この法律は、企業や団体の違法行為などを通報した人が、報復などの不利益を受けないよう保護するための制度です。 つまり、社会の利益を守る目的で行われた通報については、たとえ情報が漏えいしていたとしても、民事上の責任は免除されます。 実際の被害が発生していない場合 情報漏えいがあったとしても、実際に被害が発生していない場合は、損害賠償が認められないことがあります。 たとえば、クレジットカード情報が外部に流出したものの、不正利用などの実害が確認されなかったケースでは、賠償の対象外と判断される可能性もあります。 損害賠償が成立するには、「被害者に具体的な損害が発生していること」が必要条件の一つです。 そのため、漏えいの事実だけでは不十分であり、「どのような実害があったか」が非常に重要なポイントとなります。 ただし、一定の条件が必要ですが、実際の被害がなくても、漏えいによる精神的苦痛を理由に慰謝料が認められるケースもあります。 情報漏えいの損害賠償に関するよくある質問(FAQ) ここからは、情報漏れに関する損害賠償のよくある質問を紹介します。 Q1:漏えいの原因が外注先だった場合、責任はどこにある? 情報漏えいの原因が外注先(委託先)であっても、発注元(委託元)企業も損害賠償責任を負う可能性が高いです。 これは、民法715条の「使用者責任」や、監督義務違反に基づき、委託先の不正行為に対して委託元が責任を問われる裁判例が多いためです。 また、個人情報保護法第25条では、委託元に対し「必要かつ適切な監督義務」が課せられています。 そのため、実際の責任は委託元がどれだけ適切な管理・監督を行っていたかによって判断されます。日頃からしっかり管理体制を整えることが重要です。 Q2:1件でも情報漏えいがあったら損害賠償になるか? 1件の漏えいでも、損害賠償責任が発生する可能性はあります。 被害者はプライバシー権の侵害を理由に損害賠償を請求でき、慰謝料が認められた判例もあります。 賠償額は漏えいした情報の内容や被害の程度によって異なりますが、一般的には1人あたり数千円から数万円程度が相場です。 Q3:顧客から訴えられたらどう対応すればよいか? まずは、裁判所から届いた訴状や書類をよく確認し、請求内容や理由を正確に把握しましょう。 その後、自社内で事実関係を調査し、証拠や資料を整理します。 そして、できるだけ早く弁護士などの専門家に相談し、法的なアドバイスを受けることが重要です。 答弁書を作成し、裁判所の指定する期限内に提出する必要があります。 また、当事者間での話し合い(任意交渉)や和解も可能ですが、その際は必ず書面に記録を残してください。 まとめ 情報漏えいによる損害賠償は、企業の過失や故意、被害者の実際の損害発生、契約違反などが原因で発生します。 賠償額は漏えいした情報の種類や被害状況によって変わり、一般的な連絡先情報の漏えいでは1人あたり数千円程度、センシティブ情報や二次被害がある場合は数万円になることもあります。 また、損害賠償以外にも、調査費用や信用失墜による売上減少など、大きなコストがかかるため、企業は情報漏えい対策が欠かせません。 企業はセキュリティ対策や社員教育、初動対応のマニュアル整備などでリスクを軽減しましょう。 万が一のときは、速やかに専門家と連携して適切に対応することが重要です。 参考記事:経済産業省第6章 漏えい事案への対応                        サイバーセキュリティインシデントが発生したら?      個人情報保護委員会FAQ索引       個人情報の保護に関する法律      日本経済新聞      日経クロステック      情報セキュリティ大学院大学      公益通報者保護制度の概要と 実務上の留意点      wikibooks       個人情報の保護に関する法律

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